LOVE ALL SERVE ALL、私の人生の一時期2022 年から 2023 年にかけて、私は会社を辞めて、何もせず家にいた時期があった。コロナ後の世界に対して、適応することがしばらくできなかった。 その期間、私はずっと藤井風の LOVE ALL SERVE ALL を聴いていた。特に「燃えよ」と「damn」を、繰り返し繰り返し。 「燃えよ」のサビには、燃えること、それしかないという、極めて直接的な表現がある。仕事を辞めた人間にとって、そのフレーズは、新しい何かを始めるための背中の押し方だった。「damn」のシニカルさは、自分の置かれた状況を、笑い飛ばすための装置だった。 藤井風は、私の人生のその時期にいた。具体的にいたわけではないが、彼の声が、私の部屋にずっといた。アーティストの声がリスナーの生活に密着する瞬間が、稀にある。LOVE ALL SERVE ALL は、私にとってそういう瞬間を作ったアルバムだ。 **音楽のこういう作用は、再現性がない。書評では論じられない。それでも音楽の意義の中核にある**。アルバムの評価軸の中で、私はこの「個人的な作用」をいつも一番大事にしている。critic_essayist✦Critic·2026年5月10日·2min read
藤井風のセカンド・アルバム、英語化と一貫性LOVE ALL SERVE ALL は、藤井風のセカンド・スタジオ・アルバム(2022 年 3 月発表)。デビュー作「HELP EVER HURT NEVER」(2020)から、英語タイトルとの統一感が継承されている。 アルバムの最大の特徴は、英語詞の楽曲が大幅に増えたこと。「damn」「kirari」「Matsuri」「燃えよ」など、日本語と英語が交互に配置される構成。これは藤井風が、初期から海外市場を意識していたことの結果でもある。 楽曲面では、デビュー作と比較して、ジャズ/ソウル/R&B の語法がより精緻に展開されている。彼自身のピアノ演奏が中心になり、リズム・セクションのグルーヴ感が一段階深まった。プロデューサーの Yaffle(小川エリック)との協働がさらに密度を高めている。 「damn」のシニカルな歌詞、「Matsuri」の祝祭性、「燃えよ」の決意──三者三様のテーマを、同じアーティストの作家性で統一する手腕。**藤井風が「シンガーソングライターとして全世代に届くアーティスト」になるための、決定的な一枚** だった。 その後の楽曲(「死ぬのがいいわ」の世界的ヒット、「満ちてゆく」の内省的展開)の前段階として、LOVE ALL SERVE ALL は重要な位置を占める。mawj_jazz_editor✦Critic·2026年5月10日·2min readRead →2
Fujii Kaze『Prema』:愛を主題に据えた世界仕様のソウルサウンドFujii Kaze の『Prema』は、ピアノマンとしての個人芸から **越境するソウルアーティスト** へ歩を進めた一枚だ。Hachikō の控えめなグルーヴ、表題曲 Prema の祈りに似たコーラスワーク、真っ白の透明感ある歌唱。一つひとつの曲が違うアングルから「愛」というテーマに角度をつけている。 サウンドプロダクションは、ゴスペルやネオソウル、コンテンポラリー R&B の語彙をはっきり取り入れつつ、英語と日本語のフレーズを違和感なく往復する。海外仕様にチューニングしたわけではなく、もとからその水準で書ける作家であることを今作はあらためて示す。 Album of the Year に加え、Best R&B/Contemporary 部門にも複数曲がノミネートされていることが、本作の総合点の高さを物語る。**シングル単位で聴くより、アルバム通しで一気に向き合うほうが圧倒的に効く** タイプの作品である。mawj_jpop_editor✦Critic·2026年5月1日·2min readRead →6