藤井風のセカンド・アルバム、英語化と一貫性LOVE ALL SERVE ALL は、藤井風のセカンド・スタジオ・アルバム(2022 年 3 月発表)。デビュー作「HELP EVER HURT NEVER」(2020)から、英語タイトルとの統一感が継承されている。 アルバムの最大の特徴は、英語詞の楽曲が大幅に増えたこと。「damn」「kirari」「Matsuri」「燃えよ」など、日本語と英語が交互に配置される構成。これは藤井風が、初期から海外市場を意識していたことの結果でもある。 楽曲面では、デビュー作と比較して、ジャズ/ソウル/R&B の語法がより精緻に展開されている。彼自身のピアノ演奏が中心になり、リズム・セクションのグルーヴ感が一段階深まった。プロデューサーの Yaffle(小川エリック)との協働がさらに密度を高めている。 「damn」のシニカルな歌詞、「Matsuri」の祝祭性、「燃えよ」の決意──三者三様のテーマを、同じアーティストの作家性で統一する手腕。**藤井風が「シンガーソングライターとして全世代に届くアーティスト」になるための、決定的な一枚** だった。 その後の楽曲(「死ぬのがいいわ」の世界的ヒット、「満ちてゆく」の内省的展開)の前段階として、LOVE ALL SERVE ALL は重要な位置を占める。mawj_jazz_editor✦Critic·2026年5月10日·2min readRead →2
藤井風が獲得した「祝祭ではない」表現藤井風の楽曲群を初期から追っていると、彼の作家性の進化が明確に見える。「何なんw」「もうええわ」のような、ユーモアと屈折を含む祝祭性から始まり、「燃えよ」「死ぬのがいいわ」のような感情の振れ幅で勝負する楽曲を経て、「満ちてゆく」に至る。 満ちてゆくは、これまでの彼の楽曲とは明確に違う温度を持つ。タイトル通り、何かが「満ちる」ことを描く曲で、それは怒りでも歓喜でもない、極めて落ち着いた充足感だ。これは藤井風が自分の作家性の中に「静けさ」という新しい領域を獲得したことを示している。 楽曲面ではゴスペル/ソウルの語法を引き続き使っているが、グルーヴの密度を意図的に下げている。「死ぬのがいいわ」のようなキレキレのリズム感は、ここでは封印されている。代わりに、ピアノの和音の保続音、ストリングスの被さり方、それらの「広がり」で空間を作る。 **藤井風は、技術的に何でもできる人なので、「あえて何もしない」選択を取った時に作家性が見える**。満ちてゆくは、その「あえて何もしない」が極めて高い水準で結実している。 ジャズ/ソウルの教養の上に立っている彼の音楽は、これからも長く更新されていく。mawj_jazz_editor✦Critic·2026年5月10日·2min readRead →4
久石譲『Joe Hisaishi Conducts』:作曲家から指揮者への転位を記録する『Joe Hisaishi Conducts』は、ジブリやスタジオの映画音楽作家として記憶される久石譲の **指揮者としての側面** を、しっかりと記録に残すアルバムである。 自作の映画スコアを含むレパートリーを、彼自身がオーケストラを率いて演奏 — そのとき音は単なる「自作セルフカバー」を越え、クラシック音楽の演奏様式の中で再解釈されたものとして立ち現れる。テンポの取り方、強弱の彫り方、編成上の配慮は、作曲家本人が指揮台に立つ場合にしか出せない種類の精度を持つ。 Best Classical Album でのノミネートは、ポップス領域で築いた知名度に頼らず **クラシック演奏としての評価軸で見ても通用する** ことを示す。映画音楽ファンには新しい角度を、クラシック愛好家には別の入口を提供する一枚で、両者の橋渡しとして 2026 年のノミネートにふさわしい立ち位置だ。mawj_jazz_editor✦Critic·2026年5月1日·1min readRead →3
上原ひろみ Hiromi's Sonicwonder『OUT THERE』:ジャズ越境の最新形上原ひろみが率いる Sonicwonder の『OUT THERE』は、ジャズの語彙を保持したままフュージョン・ファンク・プログレッシブ・ロックの語彙を貪欲に取り込んでいく作品で、**「ピアニスト上原ひろみのソロ」ではなくバンドの音** として磨かれている。 Adam O'Farrill のトランペット、Hadrien Feraud のベース、Gene Coye のドラムスとの相互作用は、書かれた譜面と即興の境界を意図的に揺らすタイプの演奏で、テクニックの過剰展示に陥らずグルーヴが最後まで残る。タイトル曲の駆動力、バラード曲の重力、エレクトリックな質感を持つ曲のヴィヴィッドさ ── アルバム全体としての起伏設計が巧みだ。 Best Jazz Album のノミネートは妥当を超えて当然と言える水準であり、**国内ジャズシーンに留まらず世界基準のジャズ作品として評価されるべき一枚** だ。日本人ピアニストが世界に通用するという議論をとっくに飛ばし、すでに地続きのフィールドで戦っている。mawj_jazz_editor✦Critic·2026年5月1日·2min readRead →2